ライトノベルの企画が通らなくて煮詰まる前に考えてほしいこと

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今日はデビュー後のプロ作家さんむけに書きます。

ライトノベル新人賞でデビューしてはみたものの、なかなかヒット作に恵まれない。それどころか新作を書かせてもらえない。チャンスがなければ売れることも当然できない。企画が通らない。担当が企画を通してくれない。

一体どうすればいいのだろうか。

もういっそ担当編集をかえてもらおうか。それか筆を折るか。こんなに苦労しても企画が通らないならつらいだけだから作家やめよう。自分には無理だったんだ。めんどくさいし、やめたやめた。

そんな、ライトノベルの企画が編集部の壁に阻まれて採用通過しなくて困っている作家さんに読んでほしい記事です。

何回負けたらティルトになるか?

いきなりですが、これはあるポーカーのプロプレイヤーの話です。

ポーカーにはティルトという考え方があります。負けが込んで損失が大きくなり、合理的な判断ができなくなったヒートアップ状態。上手くいかなかったことが引き金となって思考がコントロールできない感情的な時間、ないしはその時の態度のことをティルトといいます。

あるところにプロのポーカープレイヤーになりたいと夢をもつ男がいました。彼は練習をつみ、研究をかさね、がんばって、がんばって、プロと同じテーブルで戦える権利を得られるくらいには上達しました。そこからさらに上を目指そうと現役のプロプレイヤーに弟子入りし、プロの思考、くせ、テクニックなどをつぶさに観察するようにしたといいます。

十分以上に腕前が上達し、意図したとおりにポーカーのゲームができるようになった頃、彼は悩みに直面しました。ティルトです。ポーカープレイヤーなら誰しも必ず経験する、避けられない現象。ティルトは多くのプロプレイヤーが頭を悩ませるごくありふれた問題でした。そしてプロとしての独り立ちを目指す彼もまた、負けが込んでしまうとプレイが荒くなり、感情的になり、制御できない思考にいらだち、ポーカーそのものを憎む瞬間さえ生まれてしまう、そんなことに苦しんでいました。

彼はある時、負けの回数とティルトの発生の関係に注目します。「自分は一体何回負けが込むと冷静でいられなくなってしまうのか?」それをチェックするようにしたのです。するとおおむね5回~8回、負けが続いてくると思考が固まってしまいやすいという傾向を発見しました。

アマチュアのなかには3回も負ければすぐヒートアップしてしまう人もいて、それに比べれば自分は相当忍耐強いということが確認できた彼はすこし満足しました。だから自分はプロに限りなく近いところにいて、それなりの成績もあげられている。しかし悩みの解決にはいたりませんでした。どうすればティルトにならないか。負けずにすむか。勝ち続けられるのか。ズブのアマチュアよりは優れているけど本物のプロのようには振る舞えない。その方法が分からない。そこで彼は師事するプロプレイヤーにこう尋ねたのです。「師匠、あなたは何回負けが込むとティルトになりますか?」対するプロプレイヤーの答えはこうでした。

「20回」

19敗目まで冷静でいられる力

要するにプロがプロたるゆえんとは、19敗目まで負けを気にしないでいられる胆力にあるのです。

ひるがえって企画が通るライトノベル作家と企画が通らずにつらい思いをしているライトノベル作家とのあいだに、どんな違いを見いだせばいいのでしょう。5回ボツになった。イライラする。8回ボツになった。むしゃくしゃする。15回ボツになった。よし、作家やめよう。

そこでちょっとこの話を思い出してください。プロのポーカープレイヤーは20回までティルトにならないと豪語しています。もちろんポーカー1回のゲームと、小説の新規書き下ろしために構築する企画とを同じものさしではかることはできません。しかし注目してほしいのは単純な回数ではなく、冷静でいられる時間が長い人ほどチャンスを掴みやすい、ということです。20回というのは方便で、30回でも100回でも負けを意識せずにいられればずっとクールでクレバーなゲームを楽しむことができます。

徹底的に冷静でいるために

企画が通らないで困っているライトノベル作家さんに声を大にしてお伝えしたいのは、とにかくヒートアップしないでほしいということ。担当編集者は味方です。敵ではありません。あなたが憎くてボツにしているわけではないのです。担当編集者の本音はたったひとつ。本を出したい。これだけです。企画なんて通したくて通したくてたまらないのです。刊行点数の増加は、ややこしいことをぬきにしていえば、その担当編集の評価をあげます。要は、出せばいい、出せればいいのです。

そんな編集者が「ダメ」というのです。それってよほどのことですよね。だからダメと言われたものは、無理矢理通そうとしてもダメです。

企画は練り直さない

ボツになった企画をブラッシュアップして通そうとするのはおすすめしません。冷静さを保つこと、直前の敗戦をいかに意識せずにプレーできるか。それが勝利へのコツだとすると、ボツ企画のブラッシュアップはこの「直前の負けを意識せず」という条件にあてはまらないからです。NGと分かったらまるっきり違う企画で挑戦するほうが企画は通りやすくなります。

同じ企画にずっとこだわり続けていると、執着がうまれ、読者に読んでほしいというユーザー第一の目線がどんどん鈍っていくことにも注目してください。『読んでほしい』だったものから『書かせてほしい』という自分本位の企画になってしまったら、そのネタは腐りはじめてしまっている証拠。どうしてもどうしてもこだわりが捨てられなければ、同じネタでの挑戦は3回までと決めて、それでもダメなら自分から取り下げましょう。

直さないかわりに質問する

企画がボツになったら。あるいはボツになりそうだと思ったら。その企画を小手先で直すことはやめる一方で、次の企画に進むまえに必ずやっておくべきことがあります。担当編集に徹底的に尋ねるのです。質問する。根掘り葉掘り、いろんなことを訊く。どうしてダメなのか?どうすればいいのか?それらに編集はたいていうすっぺらい答えしかくれません。でもそこで簡単に分かったふりをしたら終わりです。質問をしつこいくらい重ねて、腑に落ちる答えが見つかるまでくらいつくようにしましょう。

担当編集が求めるものを知る

質問の目的は単純です。担当編集者が何を欲しがっているのかを知る。これだけ。しかしこれが存外むずかしい。編集者もいろいろいて、それぞれに趣味や目標もバラバラです。担当編集者がどんな人でどんなことが好きでどんな新作を欲しがっているか。じつはこれは、その編集者自身にも分からなかったりします。だから質問をするのです。尋ねて尋ねて、その人が欲しがっているものが本当は何なのか、それを浮き彫りにしてあげる。担当編集者自身すら知らない担当編集者のニーズに言葉や形を与えてあげる。それが、次の新企画を生むための最短コースです。編集者から教わると同時に、編集者にも教える。お互いをわかり合うとは、そういうことですよね。

企画を作るな、読み味を作ろう

さいごにこれ。担当編集者にたっぷり質問して、ああこいつはこういう企画を欲しがってるんだな、ということが分かったら。今度はそれをそのまま企画にする前にちょっとだけ立ち止まってみてください。そして、「それってどういう読み味か?」ということを自分で深く考えてみるのです。どんなキャラがどんな設定でどうするか、そういう枝葉末節はあとから考えて。それよりも前に、どういう読み味を提供すればいいのか。そのことを徹底的に考えまくってください。そしてそれを実現するために必要なキャラ、設定、舞台、ストーリーを肉付けしていく。こういう順番で考えていくと、案外すんなり企画が通ってしまいます。もしまだ試していなければ、ぜひ挑戦してみてください。

 

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