新人編集者が一人前になるまでに経験すること

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なにごともはじめは初心者です。編集者もしかり。スタートから一人前の人はいません。

若手編集者は経験が浅く、編集のイロハもしらないで業界の海にこぎだしていきます。

そんな新人編集者が一人前の編集者になるまでには、いろいろな経験が待っています。先輩編集者についてあれこれ手ほどきを受けたり、失敗をやらかして成長したり、作家からいろいろな気付きをもたらされたり、経験は多様です。今回は、新人編集者が一人前になるまでをテーマに、先輩から学ぶこと、作家から学ぶことの両方を書いていきます。

新人編集者が先輩編集者から学ぶこと

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編集者の最初の仕事は先輩の同行

経験ゼロの編集者が、一番はじめに行うことは、先輩編集者との打ち合わせへの同行です。

編集者がどこで何をどのように話し、聞き、決めごとをしてくるか。それを自分の目でしかと見てくることがごく初期の重要な仕事です。たいていは実力のあるベテラン編集が、これまたベテラン作家との打ち合わせに連れていくものと相場が決まっています。

そこでは必然的に自分が一番の若手になります。若手らしく真面目に話を聞き、先輩を立てて、作家に敬意をもって接することを心がけたいものです。そうしているうちに、作家か先輩編集どちらかからでも意見を求められればしめたもの。若い観点からの気の利いたアイデアを、ずばり答えられればその日の仕事は及第点です。マンネリ化した担当同士のうちあわせに、すこしでもフレッシュな風を吹き込むつもりでいれば、打ち合わせの前後ですこし成長できた気になれます。

先輩の打ち合わせから何を盗むか

先輩に同行していって注意深く観察したいポイントはいくつかあります。

リスペクト精神

まずつかみとりたいのは、作家へのリスペクト精神です。

先輩編集が担当作家に対して、どのように敬意をはらっているか。言葉づかいや仕草、ちょっとした視線にこめられた感情など。それが好ましいものであれば、いつか自分が担当をもったときに真似をするつもりで心に刻みつけておくまでがお仕事のうち。

ところで原理原則として、編集者は作家をリスペクトするもの。ですが、みんながみんなそうできていれば、世の中に炎上トラブルなんて起こらないはずですよね。編集部のカラーといいますか、編集部単位で作家全体に対する偏見や軽視が横行している場合もあり、直接の先輩もまたリスペクト精神に欠けるなんてこともゼロではありません。その色に染まることで得られるもの、失うものを考えながら、作家へのリスペクト精神を自分なりに身に着ける必要があります。

逆に作家が編集をどう思っているかも見逃せません。言葉のはしばしに現れるものはもちろん、その裏に隠されたこともふくめて想像力を働かせるのが大切です。

距離感

作家と編集が、どういう種類のつきあい方をしているか?ここから新人編集が学ぶ部分がみえてきます。

たとえばビジネスライクなパートナーとして話をしているのか。あるいはまるで友達のように愉快に話をしているのか。担当が「主」、作家が「従」といった上下関係が見てとれるような関係なのか。あるいはその逆か。私はこれを距離感と呼んでいます。編集者によってこの距離感はさまざまあり、べたぁ~っとプライベートまで親密なタイプもあれば、ビシッと公使を分けるタイプもあります。どちらが良いとか悪いとかではなく、自分ならどうしたいか、どうできるかを見極めるのも新人編集者に課せられた使命のひとつです。

はったりのきかせかた

編集者は、はったりをかまします。

ベテラン編集者ほど、はったりをはったりと気づかせずにかまします。いい意味で、てきとうです。新人のうちは、先輩編集の発言のどこからどこまでが本当で、どこからどこまでが冗談で、どこからどこまで勘違いで、どこからどこまで騙そうとしている嘘なのか、ほとんど分かりません。経験を積むうちによく分かるようになっていくので、しばらくは騙されるのを上等と、いろいろ真に受けてがんばるのが吉かと思います。そうこうするうちに自分でもはったりを利かせられるようになります。

編集者のはったりスキルは、たとえば納期について。あと締め切りまで数日の猶予があるのに、あたかも5日くらい寝ていないかのような切羽詰まった声で「もう、印刷所をおさえられません」くらいのことを言いながら作家の納期を繰り上げようとしたりします。それを横目に見ながら新人編集者は、自分ならもっと前もって安全なスケジュールを組めるぞ!と意気込んだり、あれ、やっぱりあのテクは便利だったんだな、俺も真似しよう。と先輩に一歩近づいたりなどします。

新人編集者が作家から学ぶこと

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小説のことは小説のプロが知っている

編集者が作家に小説の書き方を指南することはありません。その作家の作品の書き方は、究極的にはその作家にしか分からないからです。

そうした狭い意味での「小説の書き方」ではなく、ひろく一般的な小説の書き方もまた、作家は日々上達をめざして勉強にはげんでいるものです。たとえば文章の良し悪しを客観的にはかる指針や、小説のごくごく基本的な作法など、テクニカルな部分で繰り返し使えるノウハウは存在します。

ある時は小説執筆ハウツーを読み、またある時は文章校正の知識をつけ、そしてまたある時はハリウッド映画の脚本術に発想のカンフルをもとめたりして、より良い文章を作りあげようとするのが一線級の作家の姿です。だから作家はたいてい、小説の書き方について精通しています。小説のプロは、小説のことをよく知っているのです。

ひるがって、勉強の途中にある若手作家とおつきあいをするなら、編集者からアドバイスをできる余地もあるかもしれません。そうしたときに不覚をとらないよう、新人編集者は作家に負けない知識を頭に蓄えておく必要があります。

新人編集者は作家の孤独を知る

では、小説を作っていくにあたって編集者は不要なのでしょうか? 近年はそうした編集者不要論が強くなりつつあり、ひとりの編集者としては肩身のせまい想いもしています。ですが、このサイトではその論にはっきりと異をとなえる立場でありたいと考えます。

作家は孤独です。そして孤独は強さです。孤独とむきあうことが創作を育てるとさえ言えます。作家は、書くときはいつもひとりです。新人編集が自分の担当を持ったら、作家を過度に突きはなすことだけはしてはならないと思います。むしろ尊く、武器ですらあるその孤独に、いかに寄り添い、いかに干渉しすぎないか、という視点を持ちたいものです。

編集者の役割は面白がることにある

作家には、自身がひとりであるがゆえに、どうしても分からなくなることがあります。それは、自分の作品が面白がられるかどうか、です。

面白さ、ではなく。面白がられるかどうか。こればかりは自分以外の誰かがいないかぎり絶対に分かりません。孤独であること。それ自体は必ずしも不安と結びつきはしません。しかし面白がられないことは作家の心に不安の影をおとします。

逆に、自分の生み出した作品が誰かに面白がられると知った作家は、そこからもっともっと羽ばたくことができます。面白がられることは、作家の喜びであり、書く原動力なのです。このことから分かるのは、編集者は作家の作品を無心に面白がればよい、ということです。面白さを正しく理解することが、担当作家のクリエイティビティに火をつけます。

おべっかを使う編集者は三流

面白がることが最大の役割というなら、編集者はなにも考えずただ誉めて誉めて誉めまくればいいのでしょうか?

私は、それは三流の編集者の仕事だと思っています。面白がることと誉めることは、決して同じではないのです。それどころか、行きすぎた誉め言葉は作家の不安を濃くするだけです。

なかには、そういう編集者もいます。阿諛追従の徒と化し、へらへらしたまま一切の批評を行わず、右から左に原稿をながして本にする。それでも給料はもらえるし本も出る、そして運さえ良ければ出世も果たし、発言力さえ増していく。そんなことが成立してしまうのが、出版業界のおそろしいところです。

たまらないのは作家です。一部の天才をのぞき、作品が面白がられるかどうかの不安と戦う人たちは、それをやられると間違いなくいつかどこかで潰れます。イエスマン編集者とつきあうことは、長期的にみると不幸だと思っていた方が無難です。新人編集者ならば、作品を誉めることと、正しく批評することのあいだにある溝を早いうちから飛び越えていく心づもりがあると良いでしょう。

先輩と作家に支えられて得る気づき

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新人編集者が一人前の編集者になるまでには、このように色々な気づきが必要です。

リスペクトの心、作家との距離感、そしてはったりのかまし方。これらをいちいち言葉で教えてくれる編集者はめったにいません。基本は、技を盗み、自分で生かす世界です。

一方作家とむきあうなかで得るものも多く、特に彼らの孤独をどうとらえるかは編集者としての資質にかかわる要素といえます。

ひとり担当作家が増えればその人の分だけ孤独があり、その形もさまざまです。距離感もひとりひとり違います。新人編集者がいつのまにか一人前の自信をもったとしても、一人前になる課程で経験してきたことは常に「現在」も求められつづけることを忘れてはならないのです。

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