文章作法

小説のコツは簡潔さと明快さ

今日は小説の文章を書くためのコツをメモしてみます。

要点は2つ。

簡潔さと明快さ。これらについて説明します。

なぜ簡潔で明快な文章が良いのか?

小説は書き手が作ったストーリーを読者に伝達するための手段です。

文章には意味があり、その意味が正しく伝わるかどうか。その可能性を高めるものが簡潔さであり、明快さというわけです。これが備わっていないと作者が味わってほしいせっかくの面白さが満足に伝わらなくなってしまいます。簡潔であるということは、無駄がないということ。文章に贅肉がないので誤読が生まれにくく、読むストレスも低くすみます。そして明快であるということは分かりやすいということ。ストーリーを伝達する手段として、伝えたい意図が分かってもらえる可能性が高まる。だから簡潔で明快な文章は良いとされています。

文章の簡潔さ

文章は簡潔であるほど良いということ。これは小説に限らず、作文でも、論文でもそう。簡単に書くことが名文への第一歩です。

文章を簡潔にするには、たとえばこのようなチェックポイントがあります。

文字数はできるだけ少なくする

文章の意味を損ねないかぎり、文字は一文字でも削ったほうが良いでしょう。 内容が同じなら文字数はすくないほど良いと覚えてください。

一文に込める内容を少なくする

文章にあれもこれもと意味を盛り込まず、一文につきひとつの内容にしましょう。主語と述語が一対一の関係になる文はきれいで読みやすいです。

冗漫な形容をしない

「経験の乏しい初心者」とか「重大な危機」とか「古来より」とか。こういうものは形容の対象自体に形容したい意味がすでに含まれています。

経験の乏しい初心者→初心者

重大な危機→危機

古来より→古来

強調したくてわざと書くということもありますが、基本的には文章の贅肉だと考えてください。

 

文章の明快さ

簡潔であるのと同じくらい大切なのは明快さです。分かりやすい文章は情報伝達能力に優れています。

文章の明快さをアップするには、たとえばこんなところに気を配ってみます。

二つの意味にとれるように書かない

一文がふたつ以上の意味に読めるように書くのはおすすめしません。誤読が起こると伝えたかった意図が正確な効果を発揮できなくなるかもしれません。

漢字を適度にひらがなにする

文字数を少なくすることと反対の話ですが簡潔さのためにあえて漢字を使わないこともテクニックのひとつです。漢字をあえてひらがなで表すことを専門用語で「ひらく」といいます。

指示語(こそあど言葉)を増やさない

これ、それ、あれ、どれなどの指示語を少なくしましょう。指示語は、指示語が登場するまでの行の内容を正確に理解していないと意味がとりづらいことがあります。その、とか、あの、などといった言葉はもしかしたら読者に理解されないかもしれない、くらいの気持ちが必要です。

イージートゥアンダースタンドが原則

文章の基本はイージートゥアンダースタンド。分かりやすく、間違いにくいもの。それが一番良い文章です。ライトノベルが名文や美文ばかりに埋めつくされるのもそれはそれで違和感がありますが、美しい文章、優れた文章が書けてこその「崩した文章」が際立つというもの。できるにこしたことはないのです。

また、イージートゥアンダースタンドの原則は読者のためでもあります。読む人に負担がない文章を心がけることは、人気商売であるライトノベル作家にとって必須の態度といえます。言い換えれば、優しさです。読者に優しく書く。思いやりをもって書く。そうすれば自然と読み手は増えていきます。

 

 

小説表記の基本ルール

小説を書くにあたり、知らなくても困りはしないけど、知っているだけで文章の見ためがよくなる決まりごとがあります。一度でも小説の書き方を調べたことがある人なら自然と知っていることばかりかもしれませんが、いつでも読み直せるようにまとめておきます。

表記法

行頭あけ

小学校の作文で習う、文章作法の基本中の基本です。ひとまとまりの文章がはじまる目印になり、読みやすさが生まれます。

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あけるスペースは、全角の空白1マス分と決まっています。半角スペースではだめです。

ワードで作成したファイルをプレーンテキストに出力する際、設定によっては全文の行頭スペースがなくなってしまうという現象がまれに発生するので注意をしてください。

 

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行頭にかっこが入るときは例外として行頭のスペースを省きます。

また、文が複数の行にまたがって途切れなく続いている場合も、わざわざすべての行頭にスペースをいれなくて大丈夫です。

 

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文章のはじめにダッシュ「―」という記号を用いるときも、全角スペースは不要です。

ただしプロの作家さんでも全角アキ+ダッシュという表記の方もいますので絶対ではありません。おなじ作品内で統一したルールがあれば、それが正解になります。

約物(やくもの)

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やくものとは、日本語文章の記号のことです。「かぎかっこ」とか、(かっこ、まるかっこ)とかの有名なものから、<やまかっこ>や《ふたやま》など、色々なものがあります。

あらゆる文章に登場する「、」「。」などの句読点もやくものに含まれます。

 

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ダッシュ(またはダーシ)は、ライトノベルでよく見かける表現方法です。余韻をもたせたり、急な印象をもたせたりするなど、文章に変化をつける効果を狙って使われます。

ニーズ、ポーズなどの音を長く引き伸ばす表現は「ー」と書き、「―」とは区別されます。「ー」は長音記号、またはオンビキなどと呼ばれることが多いです。

活版印刷の仕組みとして「ー」と「―」を区別する必要に迫られて、ダッシュを2倍に伸ばした版が作られたことからダッシュはいまでも2の倍数単位で用いられるという決まりが残っています。

 

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「……」これもライトノベルでよく見る手法です。1マスにちいさな点を3ついれたものを特に「三点リーダー」と呼び、これもダッシュ同様に2マス分を一単位として使うのがお約束です。

 

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文の途中に?とか!とかが出てきた場合は、そのすぐあと1マス分を全角アキにします。

「受賞決定? やったぞ!」

 

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例外として、セリフのなかに感嘆符を含む場合でもカギカッコの直前に来る場合などはスペースはいりません。

句読点

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句読点の使い方は、小学校までの国語を習っていれば問題なくわかるはずです。

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ただし、小学校の教科書はこのルールに反しているので混乱が生じます。セリフのなかの文末に、句点がついているんですよね。商業出版のルールは、国語の教科書通りではない部分もあります。中には現役のプロ作家にも、句点+カギカッコをこだわって使い続けている方もいるにはいます。最終的には自分ルールの統一で対応してください。

 

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句点の例外としては、逆にカギカッコの直後に句点がくるのがふさわしい、というケースもあります。

「ラノベ」「白銀騎士団」「からあげ定食」など、カギカッコで名詞を強調している語が文章の最後にくる場合、その閉じかっこは文章全体を終わらせる意味を持っているわけではありません。そういう時は例外としてカギカッコで文章を終わらせず、句点をつけたほうが良いでしょう。

漢字の使い方

漢字を使う時、つかわないとき

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一般的な表記ルールにしたがえば、漢字は「概念を表すものの時に」使うものです。

名詞、動詞、形容詞、形容動詞など、文法上ひとまとまりの意味をもつ言葉の仲間はなるべく漢字を使って表現しましょう。

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一方、名詞の中でも形式名詞や補助動詞にあたるものはひらがなで書いたほうが読みやすくなります。

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このように「~みる」のような補助動詞は、漢字にするかしないかで意味も変わってくることがあります。

数字の表記

縦書きのための数字

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縦書きは原則として漢数字を使うのが好ましいとされています。しかし、必ずしもそれが絶対の正解というわけでもありません。

たとえば、作中で登場人物がデジタル時計で時刻を読んだ、という描写があったとします。そのときは作者のこだわり次第で、縦書きでも数字で表現するということもありでしょう。

年代に関する表記、時刻に関する表記、量に関する表記、数を数えるときの表記、それぞれがバラバラでもかまいませんが、おなじ概念同士は統一したルールになっているほうが洗練された文章になります。

口語表現の推奨

意外と使いがちな文語表現

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~のごとき、~のごとし、などは古めかしく固い表現です。雑誌でも小説でも新聞でも、平易で簡潔な文体が推奨されます。たとえば「~ごとし」は、~のような、という簡単な言い換えが可能です。ほかにもどこか固苦しい書き方になっていたらなるべく簡単な表現に直すよう心がけましょう。

詳しくは日本語表記ルールブックに

詳しくは日本語表記ルールブックにもっともっと書いてあります。
なんと1冊540円! 80pそこそこのすごく薄い本で、場所をとりません。厚さ1cmに満たない本です。

文章を書くときのさまざまな迷いをなくしてくれる一冊です。小説執筆のお供に一冊おすすめします。

ライトノベルを書きたい人に編集者が本気でおすすめする本7冊

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小説を書きたい。ライトノベルを書いてみたい。

そうした気持ちをもって当サイトを訪れた方にむけて、ぜひ読んでほしい本を紹介します。

どれもライトノベル編集者が自信をもっておすすめするものばかりです。

私もおりにふれて何度も読み返す本や、最新の参考書の中から、特にお気に入りの7冊をどうぞ。

1.

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ベストセラー・ライトノベルのしくみ

2008年以降に発売し、業界を席巻した超人気シリーズに焦点をあてて分析した評論書。

分析対象はそうそうたるラインナップ。「生徒会の一存」「バカとテストと召喚獣」「とらドラ!」「ゼロの使い魔」「とある魔術の禁書目録」「攻殻のレギオス」「涼宮ハルヒの憂鬱」などなど。

良書です。売り上げの多さを共通点にして、小説を通して人気をいかに獲得するかという俗っぽいことに大真面目に踏み込んでいきます。思いつくかぎり、類書はありません。この本に書いてあることは、この本にしかない。ライトノベルが好きで、ライトノベルに誇りをもって携わりたいと願う人には一度読んでみてほしい本です。

2.

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売れる作家の全技術

ライトノベルにかぎらず、広義のエンターテイメント小説を書こうとするならぜひ手元においておきたい指南書です。

かぎりなくプロに近いアマチュアが、現役最高の作家から売れる小説の書き方をレクチャーされる。まるでその場にいるかのような臨場感をおぼえます。

もうすこし詳しく言うと、エンタメ小説業界のトップランナー・大沢在昌が12人の生徒を集めて、つつみかくさず「売れる小説」の書き方を教える講義があり、それを書籍にまとめた、という内容です。集められた12人はいずれも厳選された人たちで、本当にプロ作家になりたい、と強く願う者という条件をクリアしています。だからすごく真剣で、熱意が伝わってくる。そしてそれほどまでの強者でも、プロ作家から指摘をうけるまで、ミスを見落としていますし、文章作法上のエラーなどが残っているんです。

ということは、初心者が読めばあれもこれもなるほど!と思わされることがごろごろ書いてある、そんな本です。

すこしでも小説の書き方を勉強したことがある方なら一度はみたことがあるかもしれませんが、「小説の視点」という概念もこれを読めばよく理解できるはず。おすすめです。

3.

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欲情の文法

萌えをコンテンツの核とするライトノベルにおいて、「エロ」は切っても切れない関係にあります。

この本は官能小説界の巨匠が、小説でエロを表現する際にこころがけるべきことを惜しげもなく披露する生々しい内容です。自在な情動のコツをつかめば、もうライトノベルは書けたも同然。

ちなみにただためになる本というだけでなく、単純に読み物としても面白い本です。著者と奥様のなれそめの話とか、面白くて感心します。童貞マインドを尊重し、弱者が強者をたいらげるカタルシスへの賛美も、ライトノベルの分野と近いものがありますね。読者を文字だけでいかにエッチに興奮させるか、気持ちよくさせるか。そんなむずかしい課題に挑戦してみたくなったら、この本を読んでください。

4.

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サルまん(上・下巻)

正式名称は「サルでも描けるまんが教室」です。その名のとおり、これを読めばサルでもまんがが描けるようになります。嘘です。でも本当にそんな気がします。

内容はほとんどジョークみたいな漫画ハウツー。漫画家・相原(相原コージ)と、指南役・竹熊(竹熊健太郎)が漫画で一山当てるという野望のため、すさまじい熱量でもってまんが道を突き進むという話です。ところがこのジョークみたいな漫画制作メソッドは、じつはちっともジョークではなく、まぎれもないガチ。ジョークのふりをした、本当にためになる理論やアイデアがこれでもかと凝縮されています。この発言もジョークみたいですが、私はこれを読んだことがない編集者とはいっしょにお酒を飲む気がしません(真顔)。

ところで当然の疑問ですが、なぜ小説の書き方を知りたいのに漫画教室の漫画なのだ?と。漫画とライトノベルが近しい分野であることもそうですが、まじめにこの「サルまん」はエンタメコンテンツの百科事典みたいな役割をもっていて、ライトノベル作家志望の方にも役に立つと思うから紹介しました。21世紀になった今でもまったく色あせない、極厚のクリエイターバイブルです。

5.

005

アイデアのヒント

創作の極意が書いてある、答えの一冊。

結論から言うと「アイデアというのは既存の知識の組み合わせに過ぎない」という主張をくりかえしている内容です。そして読者に「そうか、それなら自分にも新しいアイデアが作れそうだ」と思わせてくれる本です。クリエイティビティ豊かなアイデアは、天才だけにあたえられた特権などではない、ということ。ライトノベルを書くのにいきづまった時にさらっと読んで、書き続ける自信を取り戻すためにこの本は役に立つでしょう。

6.

006+

データの見えざる手

人間の行動は、方程式で表現できる。

これ、ものすごくものすごく面白い本です。ウェアラブルセンサーを用いて取得したヒューマンビッグデータをもとに、常識だと思っていたことにカウンターを食らわせる、最新科学のおどろきがつまった内容なのです。ちなみに「U分布」と呼ばれる統計グラフが本書の肝。たとえば、人類が一日のあいだにキーボードで入力できる文字数には上限があって、その壁を超えることは科学的に不可能である、とかなんとか。え、小説の最大生産量は地球単位でキャパシティがある!?というトンデモな説も導ける。まじか。(だいぶ意訳)。すぐには信じられないことがいっぱい書いてあるのですが、データが言うならそうなのか、と納得しちゃうのは私が単純なせい?

ともあれ、ライトノベルには新奇性が常に求められています。あたりまえだと認識していたものを、まるっと覆すようなことが書いてあると面白さがアップするのです。事実であるかどうかは重要ではありません。あたかも本当であるかのように、読者に思わせることができれば十分なのです。まだ多くの人には知られていない科学の新情報を、説得力たっぷりに書く力を養いたいならビッグデータ関連のこういう本はうってつけといえます。

7.

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最新・差別語不快語

そして、こちら。差別表現・人権問題の解説書です。

言葉を生業にしようとする以上、自分がつむぐ言葉が人を傷つけるおそれがないか、考える必要があります。

もちろんそれはライトノベルにもあてはまります。若い読者むけだからこそ、備えておきたい知識です。

特に、面白さを優先するあまり、少数の人にとって読むに堪えないつらさを振りまくことだけはないようにしたいものです。

もし本気で作家をこころざすなら、一冊でいいので本棚に入れておきましょう。

類書は多数ありますが、いくつか見比べていちばん気に入ったものを選べばOKです。