編集の仕事

ライトノベル編集者になるには?たとえばこんな方法もある

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編集者になるのに特別な資格はいりません。

国が定めた認定試験はありませんし、資格取得のための学校もありません。出版社に勤めて、本を作る仕事を任されれば、それはもう編集者です。

ただし編集者になるからには絶対にかかせないものがあります。それは、言葉のプロになるという意識です。編集者は、本と言葉について深く考えぬき、それを生業とする職業です。編集者になる前。そしてなった後も。言葉に対する感覚をできるだけ鋭く研ぎ澄ませることが大切です。

編集者になる具体的な3つ方法

編集者になるには、大まかにわけると3つの方法があります。どれもこの業界にいて実際にこの目で見てきた方法です。

①編集アルバイトに採用される→数年経って昇格

いわゆる叩き上げのコースです。

編集部にアルバイトとして入社し、編集部のサポートメンバーとして陰に日向に働くお仕事を経て、編集者への昇格を目指します。編集部というものは、常に1人はお手伝い要員のアルバイトを求めています。本を作る以外に、こまごました仕事が山積みになるのでそれを手助けしてくれる人員がほしいのです。

アルバイトの業務は多岐にわたります。見本誌の発送作業、電話の応対、来客への対応、コピー用紙の補充、郵送物の整理と配布、書棚の整理、書類のプリントアウト、アンケートの集計、など初歩的な軽作業が主な業務です。(ここに書いてあるのはほんの一部です)最初はこのような誰にでもできるごく簡単なことから始まって、だんだんと求められる業務が増えていきます。

そのジャンルのファンであれば採用に有利

編集部のあつかうジャンルのファンは、アルバイトとして重宝されやすい傾向があります。

ライトノベルの編集部であれば、ライトノベルの熱心なファンは有利かもしれません。それと言うのも、編集者はいつも自分の感性と市場の感性とがズレていないかどうかを気にしています。そこに学生アルバイトはうってつけのサンプルとなります。熱心なファンの立場から、これから世に出そうとする本を忌憚なく批評してほしいのです。

たとえば編集者から未完成の小説を読んでその感想を求められたりします。あるいは、装丁についての率直な意見をたずねられたりもします。同時に、編集者としての素質を試されているとも考えられます。

こうした経験を積んでいくなかで、仕事の早さや正確さ、人当たりの良さ、感性やそれを補強する理論的な思考など、総合的な能力が暗黙のうちに評価されていきます。そして編集長の眼鏡にかなえば、「そろそろ契約を変えようか?」と昇格を示唆される日がくるでしょう。

昇格に際して気を付けたいこと

アルバイトは時給制で契約していることがほとんどですが、働き方によっては社員になると収入が減るかもしれません。その点には注意をしておきたいものです。特に出版社のアルバイトは、いわゆるパートタイムとは違って早朝から深夜までべったり職場にいすわりながら時間をすごすということもあり得ます。下手をすれば、アルバイトだけど徹夜で残業、なんてこともゼロではありません。

ということは、時給制で考えると、ものすごい金額の稼ぎになることもある、ということです。

ところが固定給になったとたん、仕事量は増えるし、責任の範囲は広がるし、大変になったにもかかわらず、残業減るわけでもないのに、アルバイトの時より手取りが下がってしまう、という嬉しくない事態に陥ります。それでもアルバイトのままでは決して味わえない、本を作る楽しさ、担当作家をもって企画を練る喜び、本がヒットする幸福などと、目先の手取り給与とを天秤にかけて、どちらが良いかじっくり考えてみることをおすすめします。

また、なんでも安請け合いする便利屋さんに徹しすぎて、編集者としての素質を磨き忘れてしまうと、いつまで経ってもアルバイトのままということになりかねません。もしそれが嫌なら、編集部の先輩たちにはいつでも「編集者になりたい!」とアピールし続けることが大切です。


②新卒で出版社に入社→編集部に配属

一般的な認識だとこれが正規で王道なコースですが、こと編集者ではちょっと違います。

とにかく編集者になりたい!という人には、意外とリスクの高い方法です。なぜなら、いざ高い倍率を勝ち抜いて出版社に入社しても、必ずしも希望通りに編集部に配属されるとは限らないからです。しかし叩き上げコースなら、絶対に編集者です。編集アルバイトの昇格先が営業部になることは考えにくいです。

稼ぐならアルバイトより正規雇用の編集者が有利

とはいえ、王道は王道。学生アルバイトからスタートした人と、新卒から編集者である人とを比較すると、稼ぎ方の面で差が出ます。23歳の時点で編集者人生をスタートしたAさんは、28歳になる頃までにヒット作をいくつか出し、基本給が5年分アップした中級編集になっています。

一方、28歳でようやくアルバイトから社員に昇格できたBさんは、基本給が下限に多少の色がついた程度の、新米編集者です。ボーナスが出る恵まれた企業であれば、過去5年分をうけとっているAさんと、これから人生初のボーナスをもらえるBさんとで差は広がっています。一生の職業として取り組むつもりなら、無理に裏道を通らず、はじめから出版社の狭き門を叩きましょう。

OB・OGに職業質問ができるなら聞いておきたいこと

もし大学のサークルの卒業生・先輩に、現役編集者がいるならぜひアポイントをとって取材しましょう。

その際、こういったことを尋ねられると進路の設計に有利かもしれません。

  • ジョブローテーションは頻繁に行われるか
  • 編集部以外の部署から、編集部に異動になった例はあるか

この2点は、どちらも「もし出版社に入社しても編集部に配属されなかった場合の救済措置が残されているか」をはかるものです。

職場によっては傾向が偏り、職種をまたいだジョブローテーションを積極的に奨励しているところもたしかにあります。そういうところなら、仮に営業部からスタートしても、いずれ編集部に異動になる目も十分あると考えられます。(当然、編集者になれたあとも、今度はまた違う部署になる可能性も高いですが)。

逆に職場によっては本当に異動というものがなく、一度入ったらずっとそのままの職種が続くという環境もあります。


③編集プロダクションに入社

アルバイトからのスタートでも、新卒採用でもない第3のコースがこれです。

編集プロダクションといって、編集業務に特化した、企画や記事代行などのプロフェッショナルな会社があります。主に出版社からの下請けで、雑誌の紙面を構成したり、発注の内容によっては本を一冊まるごと作るという仕事も入ってきます。ここでは入社=編集者ですので、いきなり編集の仕事がスタートします。

いわゆる「編集者」が、クリエイターと取引するのに対して、編集プロダクションの編集者は、編集者と取引をします。つまり、編集者の編集者です。

編集力を修行するなら編プロは理想的

編集プロダクションのスタッフに求められるのは、即戦力です。

取引のある編集者から「こういう企画を抱えているんだけど、うまく形にしてほしい」と仕事を請け、最適な形で返します。逆に編集プロダクションの側から「こういう企画をそちらの編集部から出してみないか」と提案して、仕事に結びつけることもあります。いずれも企画を実現するための力、企画をうみだす発想力、提案を通すプレゼン力など、さまざまなスキルが要求されます。

編集プロダクションで一人前の仕事ができるようになれば、編集業務はもうなんでもできると考えてもさしつかえないはずです。

下請けから元請けへ。業界内での転職を狙える

編集の実務全般をマスターしていれば、出版社への転職に有利です。

実は編集者は出版業界のなかでグルグルと転職をする性質があります。昨日までライバル他社にいたはずの人が、今日から同じ職場で編集者をしているということはままあることです。(実際にはそうでもないのですが)専門性のある職種だと思われがちで、即戦力を補強しようとすると、どうしても現役編集者の転職を採用したくなるという背景があります。

編集プロダクションのスタッフは、その意味では十分に即戦力として扱われるため、まったくの異業種から飛び込んでくる人よりも出版社への中途採用に有利に立ち回れるでしょう。

まとめ

おおまかに分けると、このような3つのコースがあります。

そのいずれに挑むにしても、情報収集は欠かせません。いまでは各出版社はSNSやツイッターなどを運用していることが多く、スタッフ募集の告知はそういった場所で行われることも増えてきているからです。

また、冒頭にも書きましたが言葉のプロになるという自覚は、いますぐ持っても遅くはありません。もともと言語感覚に優れた方は、それだけで編集者になる素質を持っています。

編集者になると、いままで一ファンとして味わってきたさまざまなコンテンツが、急に「商品」としてしか見られなくなることもあります。それは切ないことである反面、物づくりにかかわってご飯を食べていく人になったという証でもあります。

編集者の仕事。10年続けられたやりがいや面白さとは?

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ドラマ「重版出来」より、いおきべさん。

 

私、編集の仕事をはじめてかれこれ10年以上経ちました。

ありがたいことに、いろいろなことを経験してきて、編集業っておもしろい!という思いをもっています。

そこで今回は、自己紹介を兼ねて編集者という仕事の面白さ、やりがいについて書いてみようと思います。

編集業を続けてこられた5つの魅力

①娯楽が仕事に直結する。

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編集者は、広く浅く知識を蓄えておくと仕事に役立ちます。

そのため、日々経験するあれやこれのすべてが芸の肥やしになります。たとえばテレビを観ること。ゲームをプレイすること。映画を観にいくこと。本を読むこと。こういうことは、企画の血となり肉となっていきます。トレンドの感覚を養うためにも不可欠です。読者がいま何を楽しみにしているかを知り、実際に触れてみることは無駄になりません。レムかわいいよ、レム。仕事に直結することなのに、娯楽性があるというのは編集者の役得のひとつです。

②才能の発掘は宝さがし。

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編集者は宝さがしをする仕事です。

子供の頃、夢中で楽しんだ遊びのひとつに、宝さがしというものがありました。何人かで集まって、手のひらにおさまるサイズのものを親となる友達がどこかに隠し、残りの子となる友達がそれを探しだすというあれです。あの時の興奮やワクワクした感覚が、編集という仕事を通して味わうことができます。

具体的には、作家さんやイラストレーターさんの発掘。稀有な才能にめぐりあえた時の快感は、なかなか他では得難い気持ちだと思います。いままで自分が知らなかっただけで、この世にはまだこれほどまでの才能が埋まっていたのか!未知の克服は、一度経験するとクセになります。

③労働時間がけっこう自由。

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のんびり、野良猫みたいな働き方ができるのも編集者ならでは。

これは職場の方針や、編集者個人の働き方によって違いが大きいですが、編集者は比較的時間を自由に使えます。取引するクリエイターの活動時間によっても影響をうけ、日中に健康的な打ち合わせをする編集者もいれば、夕方まで寝ているかわりに徹夜で作家の作業にお供する編集者もいます。

また、一ヶ月のなかで特別忙しい時期と、それほど忙しくない時期というのが波のようにやってくるのも特徴です。修羅場をぬけたあとは、ぽっかりと作業量ゼロになる瞬間もあります。

印刷所への入稿をすませるなど、抱えている案件が手離れした直後は「待つ」ことが仕事になります。そういう時間に何をして過ごすかは編集者の裁量次第という側面も。

さらに言えば、編集者それぞれの時間の流れがまちまちであることは、職場全体のコンセンサスになりますので、休憩時間をいつとるのかは個人の判断にまかせられます。ランチタイムのピーク時を避けて、ラストオーダー近くにふらっと食べにいくこともできますし、みんながあくせく働く午後の時間帯に、軽い息抜きと称して近所にポケモンを捕獲にいったとしても黙認されます。

④原稿がいち早く読める。

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ワンピースの担当編集は、『ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)』がなにか知らされている、的な。

これは編集者なら誰でも口をそろえて言うことですね。人気作の最新話を最速のタイミングで読むことができます。評判も高く、売上もともなっている作品の面白いところを、誰よりも早く味わえる。編集者ならではの特権です。最新刊どころか、先々の構想までクリエイターと共有していることもありますので、早く知っているということに関して言えば特別な立場にいます。

また、このいち早く原稿が読めるということの真髄は、当初の打ち合わせで把握していた展開を超えて、クリエイターがさらにすごいものを作り上げてきたときにこそ感じるものです。期待を超える面白さ。予想を裏切る展開。そういう良い意味での意外性に、作品の外で直面することがあります。出版されて世に出るときには、もう「変更後」なので、読者はそういう変化があったことを知りようがありません。この驚きを体験できるのは編集者だけです。

⑤重版出来。

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大好きな言葉、重版出来。

これは漫画とドラマですごく有名な単語になりましたね。じゅうはんしゅったい、と読みます。作った本がよく売れて、はじめに印刷した分では足りなくなった時に、追加で印刷することをこう呼ぶのです。そしてこれが、編集者の醍醐味であり、生きがいです。企画がうまく図に当たり、ヒット作となれば担当編集として大変うれしいものです。しかも素晴らしいことに、うれしいのは自分だけではありません。クリエイターはもちろん喜んでくれます。たくさん売れたということは、たくさんの読者が面白がってくれた証拠でもあって、その人の数だけうれしさが広がっていったんだろうとも思います。

なかなか狙ったとおりに重版がかかることはないものの、全ての編集者は自分の担当作が売れてほしいと願っています。(もちろん、同僚の本も!) 一度でも重版を経験した編集者は、なんとかしてまた当ててやろう!と次の重版を目指します。やる気もアップします。仕事の精度も3割増し。それくらい、重版出来は編集者にとっての麻薬めいたものなのです。これがあるからやめられない。

ドラマ毎週観てました。ムロツヨシさん演じる売れない漫画家になぜかすごく感情移入しちゃって、毎話ごとに胃が痛かったです(笑)

編集者は人生いつでも編集業

編集者のきれいな部分はだいたいこれで伝わったのではないでしょうか。編集者はこういうことをしています。

トレンド感覚を養うために日常を仕事に取り込み、まだ見ぬ面白さを求めて人生そのもので宝さがしをする。

いいことばかり書きましたけど、嘘はついていないつもりです。

もしもうちょっと詳しく編集者の仕事ぶりについて調べてみたい方は、

新人編集者の奮闘ぶりも楽しい骨太なお仕事漫画、重版出来を読んでみると詳しくなれるかもしれません。ラノベ編集部ではありませんが、雰囲気はよく伝わると思います。おすすめです。

新人編集者が一人前になるまでに経験すること

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なにごともはじめは初心者です。編集者もしかり。スタートから一人前の人はいません。

若手編集者は経験が浅く、編集のイロハもしらないで業界の海にこぎだしていきます。

そんな新人編集者が一人前の編集者になるまでには、いろいろな経験が待っています。先輩編集者についてあれこれ手ほどきを受けたり、失敗をやらかして成長したり、作家からいろいろな気付きをもたらされたり、経験は多様です。今回は、新人編集者が一人前になるまでをテーマに、先輩から学ぶこと、作家から学ぶことの両方を書いていきます。

新人編集者が先輩編集者から学ぶこと

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編集者の最初の仕事は先輩の同行

経験ゼロの編集者が、一番はじめに行うことは、先輩編集者との打ち合わせへの同行です。

編集者がどこで何をどのように話し、聞き、決めごとをしてくるか。それを自分の目でしかと見てくることがごく初期の重要な仕事です。たいていは実力のあるベテラン編集が、これまたベテラン作家との打ち合わせに連れていくものと相場が決まっています。

そこでは必然的に自分が一番の若手になります。若手らしく真面目に話を聞き、先輩を立てて、作家に敬意をもって接することを心がけたいものです。そうしているうちに、作家か先輩編集どちらかからでも意見を求められればしめたもの。若い観点からの気の利いたアイデアを、ずばり答えられればその日の仕事は及第点です。マンネリ化した担当同士のうちあわせに、すこしでもフレッシュな風を吹き込むつもりでいれば、打ち合わせの前後ですこし成長できた気になれます。

先輩の打ち合わせから何を盗むか

先輩に同行していって注意深く観察したいポイントはいくつかあります。

リスペクト精神

まずつかみとりたいのは、作家へのリスペクト精神です。

先輩編集が担当作家に対して、どのように敬意をはらっているか。言葉づかいや仕草、ちょっとした視線にこめられた感情など。それが好ましいものであれば、いつか自分が担当をもったときに真似をするつもりで心に刻みつけておくまでがお仕事のうち。

ところで原理原則として、編集者は作家をリスペクトするもの。ですが、みんながみんなそうできていれば、世の中に炎上トラブルなんて起こらないはずですよね。編集部のカラーといいますか、編集部単位で作家全体に対する偏見や軽視が横行している場合もあり、直接の先輩もまたリスペクト精神に欠けるなんてこともゼロではありません。その色に染まることで得られるもの、失うものを考えながら、作家へのリスペクト精神を自分なりに身に着ける必要があります。

逆に作家が編集をどう思っているかも見逃せません。言葉のはしばしに現れるものはもちろん、その裏に隠されたこともふくめて想像力を働かせるのが大切です。

距離感

作家と編集が、どういう種類のつきあい方をしているか?ここから新人編集が学ぶ部分がみえてきます。

たとえばビジネスライクなパートナーとして話をしているのか。あるいはまるで友達のように愉快に話をしているのか。担当が「主」、作家が「従」といった上下関係が見てとれるような関係なのか。あるいはその逆か。私はこれを距離感と呼んでいます。編集者によってこの距離感はさまざまあり、べたぁ~っとプライベートまで親密なタイプもあれば、ビシッと公使を分けるタイプもあります。どちらが良いとか悪いとかではなく、自分ならどうしたいか、どうできるかを見極めるのも新人編集者に課せられた使命のひとつです。

はったりのきかせかた

編集者は、はったりをかまします。

ベテラン編集者ほど、はったりをはったりと気づかせずにかまします。いい意味で、てきとうです。新人のうちは、先輩編集の発言のどこからどこまでが本当で、どこからどこまでが冗談で、どこからどこまで勘違いで、どこからどこまで騙そうとしている嘘なのか、ほとんど分かりません。経験を積むうちによく分かるようになっていくので、しばらくは騙されるのを上等と、いろいろ真に受けてがんばるのが吉かと思います。そうこうするうちに自分でもはったりを利かせられるようになります。

編集者のはったりスキルは、たとえば納期について。あと締め切りまで数日の猶予があるのに、あたかも5日くらい寝ていないかのような切羽詰まった声で「もう、印刷所をおさえられません」くらいのことを言いながら作家の納期を繰り上げようとしたりします。それを横目に見ながら新人編集者は、自分ならもっと前もって安全なスケジュールを組めるぞ!と意気込んだり、あれ、やっぱりあのテクは便利だったんだな、俺も真似しよう。と先輩に一歩近づいたりなどします。

新人編集者が作家から学ぶこと

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小説のことは小説のプロが知っている

編集者が作家に小説の書き方を指南することはありません。その作家の作品の書き方は、究極的にはその作家にしか分からないからです。

そうした狭い意味での「小説の書き方」ではなく、ひろく一般的な小説の書き方もまた、作家は日々上達をめざして勉強にはげんでいるものです。たとえば文章の良し悪しを客観的にはかる指針や、小説のごくごく基本的な作法など、テクニカルな部分で繰り返し使えるノウハウは存在します。

ある時は小説執筆ハウツーを読み、またある時は文章校正の知識をつけ、そしてまたある時はハリウッド映画の脚本術に発想のカンフルをもとめたりして、より良い文章を作りあげようとするのが一線級の作家の姿です。だから作家はたいてい、小説の書き方について精通しています。小説のプロは、小説のことをよく知っているのです。

ひるがって、勉強の途中にある若手作家とおつきあいをするなら、編集者からアドバイスをできる余地もあるかもしれません。そうしたときに不覚をとらないよう、新人編集者は作家に負けない知識を頭に蓄えておく必要があります。

新人編集者は作家の孤独を知る

では、小説を作っていくにあたって編集者は不要なのでしょうか? 近年はそうした編集者不要論が強くなりつつあり、ひとりの編集者としては肩身のせまい想いもしています。ですが、このサイトではその論にはっきりと異をとなえる立場でありたいと考えます。

作家は孤独です。そして孤独は強さです。孤独とむきあうことが創作を育てるとさえ言えます。作家は、書くときはいつもひとりです。新人編集が自分の担当を持ったら、作家を過度に突きはなすことだけはしてはならないと思います。むしろ尊く、武器ですらあるその孤独に、いかに寄り添い、いかに干渉しすぎないか、という視点を持ちたいものです。

編集者の役割は面白がることにある

作家には、自身がひとりであるがゆえに、どうしても分からなくなることがあります。それは、自分の作品が面白がられるかどうか、です。

面白さ、ではなく。面白がられるかどうか。こればかりは自分以外の誰かがいないかぎり絶対に分かりません。孤独であること。それ自体は必ずしも不安と結びつきはしません。しかし面白がられないことは作家の心に不安の影をおとします。

逆に、自分の生み出した作品が誰かに面白がられると知った作家は、そこからもっともっと羽ばたくことができます。面白がられることは、作家の喜びであり、書く原動力なのです。このことから分かるのは、編集者は作家の作品を無心に面白がればよい、ということです。面白さを正しく理解することが、担当作家のクリエイティビティに火をつけます。

おべっかを使う編集者は三流

面白がることが最大の役割というなら、編集者はなにも考えずただ誉めて誉めて誉めまくればいいのでしょうか?

私は、それは三流の編集者の仕事だと思っています。面白がることと誉めることは、決して同じではないのです。それどころか、行きすぎた誉め言葉は作家の不安を濃くするだけです。

なかには、そういう編集者もいます。阿諛追従の徒と化し、へらへらしたまま一切の批評を行わず、右から左に原稿をながして本にする。それでも給料はもらえるし本も出る、そして運さえ良ければ出世も果たし、発言力さえ増していく。そんなことが成立してしまうのが、出版業界のおそろしいところです。

たまらないのは作家です。一部の天才をのぞき、作品が面白がられるかどうかの不安と戦う人たちは、それをやられると間違いなくいつかどこかで潰れます。イエスマン編集者とつきあうことは、長期的にみると不幸だと思っていた方が無難です。新人編集者ならば、作品を誉めることと、正しく批評することのあいだにある溝を早いうちから飛び越えていく心づもりがあると良いでしょう。

先輩と作家に支えられて得る気づき

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新人編集者が一人前の編集者になるまでには、このように色々な気づきが必要です。

リスペクトの心、作家との距離感、そしてはったりのかまし方。これらをいちいち言葉で教えてくれる編集者はめったにいません。基本は、技を盗み、自分で生かす世界です。

一方作家とむきあうなかで得るものも多く、特に彼らの孤独をどうとらえるかは編集者としての資質にかかわる要素といえます。

ひとり担当作家が増えればその人の分だけ孤独があり、その形もさまざまです。距離感もひとりひとり違います。新人編集者がいつのまにか一人前の自信をもったとしても、一人前になる課程で経験してきたことは常に「現在」も求められつづけることを忘れてはならないのです。