初心者向け

小説を書くには「中学生用の国語辞典」で本を書くといい

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今日は語彙の話をします。

作家は、言葉の正しく使いこなせるよう、言葉の意味に人一倍気をつけることが求められる仕事です。言葉に対する感覚を養うためには、国語辞典が役に立ちます。用法の分からない言葉に出会ったとき正確な意味を調べることで、誤った文章を書かずにすみます。本当の意味を知り、語彙をふやすことだけではなく、「自分がなにげなく使っている言葉が本当に正しいかどうか?」かえりみる意識を身につけるのにも有用です。

ところで、ライトノベル作家になりたければ悪いことは言わないので中学生用の国語辞典を買いましょう。「いまどき紙の辞典かよ?」という考えもわかりますが、意外や意外、紙の辞典には驚くべき力があるのです。

中学生用の国語辞典に載っている言葉だけで書く

ライトノベルをどんな言葉で書くか

ライトノベルは中高生のための読みものです。
中高生に読んでもらう文章なので、中高生が学習する語彙(=知識にストックしている言葉のグループ)で書くと、ストレスなく理解されます。分かりやすさを求めるなら、ライトノベルは中高生の語彙で書くのが望ましいわけです。

分かりやすいものは面白いと感じる

分かりやすさは正義です。最近の研究で「流暢性(わかりやすさ)」という概念がものの評価や、好き嫌いの判断にも結びついていることが分かってきたそうです。中高生が読んだ時わかりやすくおもしろいと思ってもらえる文章になっているほうが自然と内容の評価が高まります。ちょっぴり背伸びをしたい、難しい言葉を使うのが大好きな中高生もいますが、それは多数派ではありません。多くの中高生は、中高生なりの感性をもち、中高生なりの語彙のなかで、中高生なりに文章を味わっています。彼らにとってストレスなく分かる言葉で書いてあるものは、それだけで面白く感じる、という前提があると思ってください。

語彙=国語辞典

中高生の語彙とは、つまり学校でならう言葉の集合です。彼らが学習で用いる国語辞典に載っている言葉が、そのまま彼らの語彙最大の範囲といえます。ライトノベルを書くときにも、なるべく国語辞典に書いてあるかどうかを基準として、使う言葉を選んでいくと自然と分かりやすい文章に近付きます。

辞典には全ての言葉は載っていない

また、国語辞典には「この世のすべての言葉が載っている」わけではありません。学習の進度によって、掲載されている言葉の総数は違ってきます。小学生には小学生の、中学生には中学生の、高校生には高校生以上を対象にした大人向けの国語辞典が用意されています。

中高生むけの文章なら、中学生を基準にする

読解力の基準をどこに置くかは、軽視できない問題です。なるべく多くの中高生にストレスなく読んでもらうためには、語彙をしぼりこんで中学生をターゲットにしましょう。

中学一年生でも問題なく読めるし、語彙力に自信がない高校生でも楽しく読める。それくらいの言葉だけで書いてあれば、かなり幅広い読者からすらすら読めると評判になるでしょう。

中学生用の国語辞典の特徴とは?

中学生用の国語辞典にも違いがある

中学生用の国語辞典といっても、いくつもあります。それぞれに特徴があり、どれを選ぶかにも作家の個性が反映されます。

国語辞典を選ぶポイント

選ぶポイントは、「収録語彙数」「新語の収録傾向」「解釈の多様性」の三つに注目してください。

収録語彙数

「収録語彙数」は、読んで字のごとく、どれくらいの言葉が掲載されているかです。多ければ多いほど、執筆に使える言葉は増えていきます。

新語収録傾向

「新語の収録傾向」は、どれくらい活きの良い言葉を扱おうとしているかです。口語表現を多様する現代が舞台のストーリーにはとくに言葉の鮮度が問われます。

解釈の多様性

「解釈の多様性」も見逃せないポイントです。おなじ言葉でも、辞書によってまるで違う書き方をしていることがあります。その書き方が、よけいなことを省いた純粋な語議だけを載せたものか、こまかいことまで詳しく書いてあるのか、というところには違いが出やすいです。

また、書いてある内容が文章として面白いかどうか、という視点も大切です。辞典なのにかたくるしくなくて、なんだかエモーショナルなことが書いてあるぞ!という例もけっこうあるからです。もし購入前に読み比べることができるなら、同じ言葉を引いてみていちばん自分の感性にしっくり来たものを購入するという選び方もあります。

自分がどういうジャンルのものを書きたいかによって、選ぶ辞典を変えるというのも賢明な判断です。作品の方向性にマッチした特徴をもつ辞典はかならずあります。

おすすめのラノベむけ国語辞典

代表的なものは以下の三つです。

例解新国語辞典 第九版

語彙は最多の59000語です。中学生むけのトップセラーを標榜しており、中学生の語彙とはすなわちこの辞典のことをさしているといっても過言ではありません。語釈のくわしさにも特徴があり、なるほどこの言葉はこういう使い方もできるのかと、新しい発想を引き出してくれることもあるでしょう。詩情ゆたかなファンタジーを書きたい人や、等身大の中高生の心情をリアルに描きたいという場合には、この辞典の語彙から言葉を採用すると効果ありです。

三省堂国語辞典 第七版

通称「サンコク」の名で有名な、高校受験のお供によく使われる国語辞典です。世相反映の精度がたかく、カタカナ語や口語表現など、ライトノベル向きの言葉をたっぷり収録しているのも特徴です。新しい言葉いつ生まれ、普及していったかという経緯まで詳しく載っていて読みものとしての面白さがあります。トレンドを意識した元気のよいお話を書くときには、サンコクを一冊手元においておくと読みやすくて楽しいものに仕上がりそうです。

岩波 国語辞典 第7版 新版

あっさりとした文体で、よけいな意味をとりはらった純粋な語義だけを知りたい場合には最も適しています。無駄のないきれいな言葉が並んでいるところから、かえって思いがけないインスピレーションを得ることもあるかもしれません。自分でイマジネーションを膨らませたい方にはうってつけです。イチャイチャさせるラブコメものよりは、硬派なバトルや戦記ストーリーを手掛けたい時に重宝するのではないでしょうか。

結局どれを選べばいいのか?

なんでもスマホで調べられる現代社会で、いまさら紙の辞典なんてナンセンスだよ!という考えでは、分かりやすいライトノベルは書けません。「正しい言葉で、わかりやすく」と言ってはみたものの、ではどうすればいいかまでは考えたことがなかったのではないでしょうか。答えは、読者の語彙と、小説の語彙を一致させること。読者が中学生なら、中学生の語彙で書くのです。その目的を掲げれば、いかに紙の辞典が創作の役に立つかお分かりいただけたでしょうか。

今回は代表的な3つの中学生むけ国語辞典をあげましたが、ぶっちゃけ辞典は1冊に絞り込む必要はありません。先述のとおり、書きたい作品のジャンルにあわせて使う辞典を変えてもいいのです。エロコメならこれ、異世界転生ならこれ、という作品ごとの辞典を変えてみるというのは、縛りプレーとしてけっこう面白いルールになるではないでしょうか。

誰でも最後まで書ける「勝手ノベライズ法」とは?

いざ小説を書き始めてみたものの、どうしても最後まで書ききれない。

そういう悩みに直面する人はとても多いと思います。しかし、文章上達のたった一つの王道は、どんなに下手でも一度でいいから最後まで書ききることです。どれほど設定に凝っても、稀代のスーパーアイデアがひらめいても、始まりから終わりまで自分の手で書き終えないことにはいつまで経っても初心者のままなのです。

では、投稿用の長編を書く前に、短くてもいいから作品を完結させる経験を積む、というのはいかがでしょう。それなら、なんとかなりそうな気がしませんか?話の始まりから終わりまで、どうにかして書きあげてみる。その練習として、短い話の完成を目指しましょう。

ここでご紹介するのは根性論ではありません。シンプルで、とても具体的なやり方なのです。名づけて、「勝手ノベライズ法」。それは、こんな方法です。

半分だけプロの力を借りる

どうすれば短いストーリーを最後まで書ききることができるのでしょうか?

書けなくて困っている人は、全体を短くしても書ききれないと思うかもしれません。自分だけで一から十までぜんぶ考えようとするのにまだ無理があるなら、半分だけプロの力を借りるのがおすすめです。

漫画を文章で書き起こす

好きな短編漫画を1つ選んで、それを自分の言葉で小説に書き起こす。名付けて「勝手ノベライズ法」といいます。

8~32p程度できれいにオチがついている短編漫画ならなんでもいいです。ライトノベルらしくなくてもかまいません。自分が好きな短編漫画を1つ選んで、それを自分なりの言葉で好きに小説にしてみましょう。

何を書けばいいかはっきりしているから書きやすい

ポイントは、思考の負担を軽減することです。

小説を最後まで書ききれないのは、突き詰めると「何を書けばいいのか分からなくなる」から。そこで、短編漫画が強い味方になってくれます。始まりから終わりまですでにはっきり決まっている短編漫画は、何を書けばいいかが分かっている分だけ思考の負担が減り、書きやすく感じるはずです。

セリフもそのまま書き写せばいいので、すらすら書けます。

「どう書くか」であなたの個性が試される

勝手ノベライズ法に取り組むと、自然とある疑問に向き合うことになるでしょう。

こんなの、誰が書いても同じになるんじゃないの?

ところが、それは誤解です。

勝手ノベライズ法は、作家の個性がくっきりと目立ってしまう練習法です。おなじ短編漫画を元にしても、あなたと、あなた以外の作家志望者とでは驚くほど別の作品ができあがることでしょう。どちらのほうが、どう優れているか。あるいは劣っているか。一目瞭然なこともあれば、読み手によって違う受け取り方をすることもあるでしょう。

あるいはプロ作家が同じ短編漫画から勝手ノベライズをしたなら、その出来栄えに驚くことになるでしょう。なるほどそういう切り口があったか!という自由な発想でアレンジしたり、もとの漫画には描いていないセリフが付け足されていることで格段に面白くなっていたり、作家性の表れ方を痛感する事例は多いはずです。

同じ原作を元にしながら、まったく異なる解釈でノベライズしあうということも起こりえます。読解のアプローチが違ったり、わざとひねくれて解釈したり、いずれにしても勝手ノベライズ法に制限はなく、あなたなりの文章で最後まで書きあげるという条件さえ満たせば、どう書こうと自由です。

勝手ノベライズの注意点

一方、初心者でも「これなら自分にも出来そうだな」と、カジュアルに取り組めて、始まりから終わりまで書きあげる訓練にもなる勝手ノベライズ法には、気を付けておきたい注意点もあります。

それは、視点の混乱です。

これは中級者以上の方に改めて説明すべき内容なのですが、小説の大切な約束事の1つに「視点」という考え方があります。この勝手ノベライズ法は、コマ割りの通りに素直に小説にしていくと、なんとなく読みづらいというか、違和感が発生してくることに気が付くはずです。それが、視点が混乱をきたしている状態です。

この違和感に自然に気がつき、どうすれば読みやすい文章になるか?ということを自ら問いかけることができるようになると、勝手ノベライズ法を通した文章上達の成果があがっている証拠です。

3.主人公の最大の強みと最大の弱みは?

お気に入りの3冊の分析法その3です。

続いては、「主人公の特性」に注意をむけてみましょう。

主人公は強みをもっている

分析法その1でも述べましたが、主人公は必ずなんらかの強みをもっています。特に主人公は、ほかのキャラクターでは代わることができない、オンリーワンの強みを備えていなければなりません。ここでは、もう一歩進んで「その強みとは一体なにか?」を見抜く力を養うことが目標です。

最大の強みは「性格」である

主人公が他のキャラクターと換えのきかない「主人公」であるためには、強みが必要だと言いました。そうした強みはいくつか持っていることもあります。そのなかで、最大の強みと呼べるものがなにかを探してみましょう。突き詰めていくと、それは主人公の「性格」であることに思い当たるのではないでしょうか?

女の子が大好き!という性格も、悪いやつは絶対に許せない!という性格も、面倒事は大嫌い!という性格も、主人公を主人公たらしめる立派な強みになります。女の子が大好きだからこそ、女の子を泣かせるやつには果敢に挑んでいくでしょう。悪事を許せない性格なら、自分なりの正義のためにあっと驚くかっこいい活躍をみせてくれるはずです。面倒事が嫌いだとすれば、面倒を避けるという行動原理に反するようなイベントでも最小のコストで省エネ解決をはかる姿をかっこよく見せてくれるでしょう。

大切なのは、その性格をもち、その性格をつらぬくがゆえに、どんな素晴らしいシーンを書けるか?ということです。作品の中で物理的に強いかどうか、戦闘に勝てるかということとは無関係である点に注意してください。

「必殺技=最大の強み」という誤解

主人公の最大の強みとは、性格であると言いました。ひるがえって、主人公のもつ必殺技は、強みの1つかもしれませんが最大のものではない、と言えます。

もちろん必殺技、能力も読みながら分析をしてみてください。こういう能力だから、こんなにもかっこいいのか!とか、なるほどこういう活用法もできるから主人公らしくてかっこいいのか!と気付くものは多いはずです。

弱み=性格でもある

主人公の最大の強みが性格であったように、最大の弱点もまた性格から探してみましょう。改めてよくよく読み込んでいくと、強みであったはずの性格が、そっくりそのままトラブルやピンチを招く弱点としても使われている場合があることに気がつくのではないでしょうか。

実は、主人公の弱みとは強みを別の視点からみた解釈の一側面なのです。たとえばドラゴンボールの孫悟空はその「強敵ほどバトルを愉しむ性格」が、戦闘での強さや、痛快でダイナミックなバトルを描くための強みになっている一方、「強敵とのバトルを優先するあまり人命や家庭をかえりみない破綻した人格」にもなるわけです。ひとつの同じ「好戦的」という性格を異なる角度から解釈するだけで、強さにも弱さにもなります。

はたして自分の主人公はどんな性格か

初心者のうちはついつい設定がちになり、能力面での強さを突き詰めたくなるものです。しかし、手本を見比べながら、性格を最大の強みとすることの大切さに早く気づいてください。初心者脱却の近道は、キャラクターの心情をいまより少しでも上手に描けるようになることです。そのために、性格を多角的に分析するクセをこの段階で身につけておきましょう。

次→ 4.読者に最も支持されているシーンはどこか?